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酒蔵見聞録 3 伊方杜氏さんの手〜武田酒造さんにて〜
  
 2月も終わり頃、武田酒造さんから平成20年3月9日に行われる『第16回朝しぼり ご案内』が届きました。
案内状にはこのように記載されていました。
「良質の酒米と清冽な水をもとに
杜氏入魂の技によって醸し、熟したもろみを一夜かけ、ゆっくり搾り、翌朝、濾過もしないで、そのままのお酒を詰めたものが『朝しぼり』。従来は蔵人しか口にすることができなかった門外不出の生地酒・・・年に一度この日限りのお酒
お酒に詳しくない私でさえ、なんだかこのお酒を飲んでみたいなぁと思いました。
早速お話を伺いに行きました。
 
2/26(火) 雨
 
 武田酒造さんは西条市三芳に位置します。イベント準備で忙しい中、代表取締役の武田吉雄さんと杜氏の上田益男さんにお話を聞かせていただきました。(写真左から)社長さんは現在4代目で、上田さんは28歳で初めて武田酒造で杜氏に就き、以来50年ずっと勤めています。2008年元旦の愛媛新聞で『現在最年長の伊方杜氏』だと取材されていました。西宇和郡の伊方町は江戸時代から多くの杜氏を輩出し、『伊方杜氏』はブランド名のようなものです。
 私が気になっていたのは杜氏さんの手です。ある化粧品のCMで「『杜氏』の手は、なぜ、美しいのだろう。 」というフレーズが流れています。そこで杜氏さんの手がどんなにきれいなんだろうかとすごく興味がありました。今回実際に見せていただきましたが、ほんとにきれいです。すべすべ、つやつやできめが細かい。(写真では少しわかりにくいかもしれません)
うらやましい!!!

「なんでこんなにきれいなんですか?」と尋ねると、
「いろんな要素があるんでしょうが、やっぱりお米がいいんでしょうね。私は酒造りの間約半年間は蔵の中で過ごしていますが、それ以外は伊方町でみかんを作っているので、日に焼けますし、手も荒れます。でも酒造りに入るとこの通りです。若い頃は、私のように酒造りから帰って来たものは「酒屋戻り」と呼ばれ、女性にも人気がありました。米を食べて、日本酒を飲み、また純米酒を少し塗るときれいになります。」
日本酒風呂もいいらしいです。
あったまるし、美容にもいいなんて、今度試してみなくては!
 はじめて麹室(こうじむろ)に入らせていただきました。この部屋は蒸し米に麹菌を均一に混ぜ合せる、大切な場所です。大きいもろ蓋と麹台が立てかけられていました。室温は35度以上あり、作業中は上半身裸だとおっしゃっていました。冬でも暑い。
 ほぐして、拡げて、集めて、ほぐして・・・
こういった作業一つ一つの積み重ねが杜氏さんの手を作り上げているのでしょう。
こちらは麹(こうじ)です。
場所によって違いが出ないように均一に混ぜています。
少し味見をさせてくださいました。
かたくて、とても甘かったです。
麹のにおいが栗の香りから松茸のような香りへと変わるそうです。酒造りのタイミングは杜氏さんの今までの経験を駆使して、香りと味と手触りで計ります。
 蔵にはたくさんのタンクが並んでいました。
この中に3月9日の朝しぼりイベントで皆さんにも振舞われるお酒が入っています。
今回の出来を尋ねたところ、
「今年は天候もよく、順調だったと思います。もろみや麹には表情があり、何かをうったえてきます。それを感じ取り手助けをしたり、アドバイスをしたり、リードすることが私の役割です。毎年天候や気温が違うので常に新たな気持ちで望んでいます。そして、毎回違った顔のお酒が出来上がるのを、赤ん坊が生まれるような気持ちで待っています。」と親が子供を思うような表情で語ってくださいました。
私にも匂わせてくれました。
花のような、甘いような・・・というと、
これが一般にフルーティと言われるような香りだそうです。
これは杉玉(すぎたま)、別名酒林(さかばやし)といいます。杜氏さんの手作りで、杉の葉を集めてボール状にしたものです。(ちなみにこちらは小さい方で大きい杉玉も別に用意されているとのこと)
軒先にこれを吊るして、新酒ができたことを知らせます。最初は蒼々としていますが、次第に枯れて茶色に変わる姿は、新酒の力強い若々しい味から、熟成されたまろやかな味への変化を物語っています。
社長さんは「普段ここのお酒を気に入ってくださるファンの人がいる限り、作り続けていきたい」とおっしゃっていました。
私もファンにさせてもらおかな・・・

   
 今回は明治37年から創業している武田酒造さんにおじゃまして、4代目社長さんと酒造り60年を超す大ベテラン伊方杜氏さんから興味深いお話をたくさん聞くことができました。また、麹室や蔵を見学させていただいたり、とても貴重な体験をすることができました。(次回はぜひ『伊方杜氏』(平成4年3月31日・伊方町発行)の思い出談義で上田さんが書かれた「遍歴雑感」中にでてくる、はじめての蔵人時代の住み込み女中さんとの淡いロマンスについて語ってもらいたいです。)
 武田酒造さんのお酒は『日本人の熱い心「ヤマト魂」と静かに移り行く四季の中で培われてきた日本人の繊細な感性を表して「日本心(やまとごころ)」と命名したそうです。そういった気持ちと文化を守り続け、これからもずっと伝わっていけばいいなぁと思いました。
 
 
 
 
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